どうも、YuTR0Nです。
この記事は2021年に書いた「ノズルまとめ」の全面リライト版です。当時は「ノズル=M6ネジの小さな真鍮部品」という時代でしたが、Bambu Lab以降は「ノズル」という言葉が指す範囲そのものが変わってきました。なのでホットエンドの機構の話も交えつつ、最新の素材・表面処理事情まで含めてまとめ直します。
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ホットエンドの基本構造
まず前提として、FDMプリンターの「ホットエンド」は大きく4つの部品でできています。
- ヒートシンク(コールドエンド):ファンで冷やしてフィラメントを固体のまま保つ部分
- ヒートブレイク(ヒートスロート):熱を上に伝えないよう断面積を絞った細い管。チタンやステンレスなど熱伝導の低い素材が使われます
- ヒーターブロック:ヒーター(カートリッジorセラミック)とサーミスタが刺さる加熱部
- ノズル:溶けた樹脂を絞り出す先端部品。狭義の「ノズル」はここだけ
ポイントはヒートブレイクより上でフィラメントが軟化すると詰まる(ヒートクリープ)ということ。だからヒートシンクの冷却とヒートブレイクの断熱が重要で、各社の設計の個性が一番出るのも実はここです。ノズル沼はホットエンド沼の入り口にすぎません。
「ノズル」の指す範囲が変わってきた話
昔ながらのV6/MK8系では「ノズル交換=先端の真鍮部品をレンチで外す」でしたが、最近は交換単位がどんどん大きくなっています。
Bambu Lab方式(フル一体型)
X1/P1系の純正ホットエンドはヒートシンク・ヒートスロート・ヒーターブロック・ノズルが完全に一体になった構造で、公式ストアでもこの塊を「ノズル」「ホットエンド」と呼んでいます。一体化のメリットは昇温が速いこと、そしてノズルとヒートブレイクの継ぎ目が存在しないので樹脂漏れ(リーク)が構造的に起きないこと。従来型で起こりがちな「熱締めが甘くてブロックが樹脂まみれ」という事故とは無縁です。
一方デメリットは、ノズル径を変えたいだけでも丸ごと交換になること。A1系はマグネット位置決め+クイックスワップ、H2Dはクリップ式のワンタッチ交換と、新しい機種ほど「丸ごと交換を楽にする」方向に進化しています。素材も真鍮ではなくステンレスと硬化鋼の2グレード構成で、0.2/0.4/0.6/0.8mmが選べます。
X1Cのホットエンド交換については以前レビューを書いたのでこちらもどうぞ。
【3Dプリンター】Bambulab X1 Carbonのホットエンドを交換してみた
E3D Revo方式(ノズル+ヒートブレイク一体)
E3DのRevoはノズルとヒートブレイクを一体のカートリッジにした規格。これも継ぎ目リークを潰しつつ、冷えた状態で工具なし・指で回すだけのノズル交換を実現しています。従来のV6で必須だった熱締め(ホットタイトニング)が不要になったのは革命的。ノズル径は本体に刻印され、シリコンソックの色でも識別できます。なおRevoノズルはV6用ヒーターブロックとは互換性がないので注意。
Bambu向けサードパーティホットエンド
「一体型は便利だけどノズルだけ替えたい」という需要に応えて、Bambu用の交換式ホットエンドが各社から出ています。
- BIQU(BIGTREETECH) Panda Revo:E3Dとの公式コラボ。Bambu X1/P1にRevoエコシステムを持ち込めるホットエンドで、60WヒーターコアとHFノズルで最大40mm³/s級のフローを謳います。DiamondBack(後述のPCDダイヤ)先端版もあり
- Phaetus Conch / Conch+:Conchは硬化鋼ノズル+EndCoatコーティング+チタンヒートブレイク、Conch+はシリコンカーバイド(SiC)ノズル搭載の上位版。価格も手頃でBambu用アップグレードの定番になりつつあります
- Slice Engineering Mako:Bambu Lab公認のアップグレードパーツで、X1/P1系で純正では不可能なノズル単体交換を可能にします。後述のkaikaFINはこれ対応
- Trianglelab TZ系:Bambu互換のホットエンドで、超硬ノズル(ZSTC)などノズル単体の選択肢が豊富
ノズル材質と表面処理
材料がよくても加工精度が悪ければ意味がないので、材料だけに惑わされないでください。kaikaのような「真鍮だけど加工精度で勝負」という方向性もあれば、「素材の硬さで殴る」方向性もあります。まずはざっくり比較表から。
| 材質/構成 | 耐摩耗性 | 温度目安 | 価格感 | 代表例 |
|---|---|---|---|---|
| 真鍮 | × | 〜300℃ | ¥ | 各社定番 / kaika |
| ステンレス | △ | 〜500℃ | ¥ | 食品用途系 |
| 硬化鋼・工具鋼 | ○ | 〜500℃ | ¥¥ | MicroSwiss / ZODIAC |
| 工具鋼+DLC系コート | ◎ | 〜300℃(製品による) | ¥¥¥ | E3D ObXidian / Trianglelab ZS |
| バイメタル(銅+硬化鋼) | ○〜◎ | 高温可 | ¥¥ | Bondtech CHT BiMetal |
| 超硬(タングステンカーバイド) | ◎ | 高温可 | ¥¥¥ | Trianglelab ZSTC |
| シリコンカーバイド(SiC) | ◎ | 〜550℃ | ¥¥¥ | Phaetus SiC / Conch+ |
| ルビー先端 | ◎ | 高温可 | ¥¥¥¥ | Olsson Ruby系 |
| PCDダイヤ先端 | ◎ | 〜300℃推奨 | ¥¥¥¥ | DiamondBack |
※温度はあくまで目安。コーティングや組み合わせるホットエンドで上限は変わります。
真鍮(Brass)
1番よく見かけるノズルの材質。入手性が非常に高く安い。そして実は熱伝導が良いのが最大の強みで、PLA/PETGなど非研磨系フィラメントなら今でも最適解です。弱点は柔らかいこと。カーボンやガラス繊維入りはもちろん、Bambuユーザーならわかると思いますがノズルクリーニングでゴリゴリやるだけでも普通に減ります。
とはいえ同じ真鍮でも、日本のテクダイヤ(TECDIA)がクホリアと共同開発した0.1mmノズルのように加工精度で別次元の造形を出すものもあります。現在はkaikaブランドとして展開されており、詳しくは後述のkaikaまとめで。
超微細「0.1mm」の3Dプリンティング用ノズル | 3DP id.arts
ステンレス(Stainless steel)
真鍮よりも頑丈で、食用のものの印刷などに向いています。とはいえ食用のものを作る場合は入手する場所に注意してください。AliExpressやAmazonのよくわからないブランドで買ったモノでは安全を謳うことは難しいと思います。またノズルだけFDAの認可がとれているようなものでも、そこへ至るまでの経路が食用に適さないのであればあまり意味がありません。FDAないし食品衛生法に適するものを模索している場合はどこまでを範囲として謳うのかよく考えましょう。FDA認可フィラメントをPrusaで印刷したからといって印刷物にFDA認可が降りるわけではなく、FDA認可の素材を使っただけになります。
なおBambuの純正一体型ホットエンドの標準グレードもステンレスノズルです。真鍮より減りにくいという意味では合理的な選択。
硬化鋼・工具鋼(Hardened steel)
焼き入れの入った鋼材。カーボンなどフィラー入りフィラメントを真鍮ノズルで使うと、使うにつれて削れて穴径が大幅に変化してしまいます。そういうフィラメントを使う場合の最初の選択肢がこれ。Bambu純正の上位グレードも硬化鋼です。
各社でどのような鋼種を使っているかはあまり公開されていませんが、MicroSwissはA2工具鋼(SKD12相当)やM2高速度鋼(ハイス)と明記しているので安心感があります。ZODIACのようにテクニカルデータシートを公開しているメーカーもあるのでチェックしてみてください。
表面処理(DLC・E3DLC・EndCoat・TwinClad XTなど)
ここ数年で一番進化したのが実は表面処理です。鋼材そのままだと「硬いけど樹脂が張り付きやすい・熱伝導もイマイチ」なので、各社がコーティングで補っています。
- DLC(Diamond-Like Carbon):Trianglelab ZSシリーズやPhaetus/Mellow系で採用。摩擦係数0.05クラスで樹脂の張り付きを防ぎ、硬度HV2000超の耐摩耗性も付与。最近の高級ノズルの黒い見た目は大体これ
- E3DLC(E3D):E3DのObXidianに使われる独自配合コーティング。工具鋼インサート+E3DLCで「ルビーや超硬に匹敵する耐摩耗性」を謳い、非粘着性でノズル周りの樹脂溜まりも減らします。ただしE3D自身が「PolyMide/Fiberon系(PA6-CF等)の攻撃的なフィラーにはObXidianでも削れる」と注意書きしているのが面白いところ。フィラメント側の進化が速すぎる
- EndCoat(Phaetus):Conchホットエンドなどに採用されるPhaetusのコーティング
- TwinClad XT・無電解ニッケル(MicroSwiss):低摩擦処理の老舗。この分野の先駆けです
タングステン/超硬(タングステンカーバイド)
Kickstarter発のTungzzleのような純タングステン系に加えて、最近の主流は超硬合金(タングステンカーバイド)。TrianglelabのZSTCは超硬+銅メッキで、Bambu互換のTZホットエンド用も展開しています。硬さと熱伝導のバランスがよく、ルビーより欠けにくいのも利点。Crealityからも純正でタングステン系ノズルが販売されています。
シリコンカーバイド(SiC)
2021年版には存在しなかった新顔。PhaetusのSiCノズルは先端に純度99.9%のシリコンカーバイドチップを採用し、モース硬度9.8、550℃連続使用可という化け物スペック。しかもセラミックなのに熱伝導が高いので昇温も速い。本体には摩擦係数0.05のDLCコーティング。PLAからPEEK、CF入りまで「全部これ1本」を狙った製品で、Bambu向けにはConch+(SiCノズル版)として展開されています。V6/Volcano/MK8版もあるので旧来機にも使えます。
ダイヤモンド(PCD)
指輪についている単結晶ではなくPolycrystalline Diamond(多結晶ダイヤ/PCD)。DiamondBack(ChampionX)がKickstarter発でしたが今やすっかり定着し、BIQUのPanda Revo DiamondBack版のようにBambu用ホットエンドとのコラボ製品まで出ています。熱伝導はダントツ、耐摩耗もほぼ無敵ですが、運用温度は300℃以下推奨なのでスーパーエンプラ用というよりは「CF系を高品質に削れず印刷し続ける」用途向けです。お値段もダイヤ価格。
ルビー
そう、あの宝石のルビー。先端にルビーを埋め込んだ構造で、Olsson Ruby以来の高級ノズルの代名詞です。耐摩耗性は抜群ですが、衝撃には意外と弱く(セラミックなので欠けます)、最近はSiCや超硬・PCDに役割を奪われつつある印象。MellowやTrianglelabからも安価なルビーノズルが出ています。
異種材料組み合わせ(バイメタル)
「熱伝導は銅系に、耐摩耗は鋼系に担当させる」という適材適所構成。銅(またはメッキ銅)ボディ+硬化鋼インサートのBondtech CHT BiMetalや、先端のみステンレス/硬化鋼のMellow BSノズルなどがこれに該当します。ルビーやダイヤ先端も広義にはこの仲間ですね。単一素材の弱点を組み合わせで潰す、ノズル設計の王道になりつつあります。
ハイフローノズル(内部形状の進化)
素材だけでなく内部形状もここ数年の大きなトレンド。高速機の普及で「ホットエンドの溶融能力が速度のボトルネック」になったためです。
- Bondtech CHT:元祖。内部を3分割した流路でフィラメントの加熱面積を増やし、同条件で30%以上のフロー向上を謳います。なおCHT構造は特許があり、模倣品を出していたTrianglelabは特許係争を受けて該当シリーズを「PLUS/MZE」系へ整理するという一幕もありました。この界隈らしい話
- E3D HighFlow / ObXidian HF:独自の内部ジオメトリで伝熱面積を増やしたRevo用ハイフロー。従来の0.4/0.6/0.8mmに加え1.0/1.2/1.4mmの大口径も追加され、60Wヒーターコアとの組み合わせが推奨されています
- Volcano/長メルトゾーン系:ノズル自体を長くしてメルトゾーンを稼ぐ古典的アプローチ。PhaetusのConch+がBambu互換でメルトゾーン延長を図っているのもこの系譜
つまり今のノズルは「素材(耐摩耗)×表面処理(非粘着)×内部形状(フロー)」の3軸で選ぶ時代になっています。
ノズル形状・規格
MKはMakerbot由来。シリーズとしてはMK1からMK11まであるものの大半は3Dプリンタ業界で有名ではありません(少なくとも家庭用では)。今でも流通しているのは実質MK8/MK10/V6/Volcanoあたりで、そこにRevoやBambu系などの独自規格が加わった形です。
| 規格 | フィラメント径 | ネジ部 | 備考 |
|---|---|---|---|
| MK6 | 3mm | M6 | 3mm時代の遺産 |
| MK7 | 1.75mm | M6 | ほぼ見ない |
| MK8 | 1.75mm | M6 | Ender系など。V6よりネジ部が短い |
| MK9 | 1.75mm | M6 | PTFE外径3mm対応 |
| MK10 | 1.75mm | M7 | ネジ部が他と互換性なし。要注意 |
| E3D V6 | 1.75mm | M6 | サードパーティ最多の事実上標準 |
| Volcano | 1.75mm | M6 | ロングメルトゾーンのハイフロー版 |
| E3D Revo | 1.75mm | 独自 | ヒートブレイク一体カートリッジ。V6ブロックと非互換 |
| Bambu純正系 | 1.75mm | 独自 | 機種(X1/P1/A1/H2D)ごとに形状が異なる |
参考元:MK6 Vs MK8 Vs MK10 Vs E3D V6 – Differences & Compatibility – 3D Printerly
kaika(テクダイヤ)まとめ
日本勢として外せないのがテクダイヤのkaika。素材は真鍮ですが、セラミック・ダイヤ加工で培った精密機械加工技術による内部30度テーパーと同心度20μmの仕上げで、「硬さではなく精度で勝負」する唯一無二の路線です。0.1mmクラスの超微細ノズルを安定供給できるのは世界でもほぼここだけ。
- kaika 1/6/7/8シリーズ:MK6/V6/MK7/MK8対応の基本ライン。シリーズ番号の後ろがノズル径(例:kaika604=V6形状の0.4mm)
- kaika10:サンステラと共同開発したCreality互換ライン
- kaika16シリーズ:Bambu Labプリンター対応。Phaetus製ホットエンド「CONCH for kaika」と組み合わせて使用します
- kaikaFIN:2025年に米Slice Engineeringと日米同時発売された新ライン。Bambu Lab公認のMakoホットエンド(X1/P1対応)互換で、Bambu機での0.1mmプリントがついに実現しました
「Bambuはノズル一体型だからkaikaは使えない」が過去の話になったのは大きいですね。
まとめ
2021年当時は「真鍮か硬化鋼か、お金があればルビー」くらいの選択肢でしたが、今は
- 交換単位:ノズル単体 / Revoカートリッジ / フル一体型
- 素材:真鍮・鋼系・超硬・SiC・PCD
- 表面処理:DLC・E3DLC・EndCoat・TwinClad XT
- 内部形状:標準 / CHT系 / HighFlow / ロングメルトゾーン
と完全にマトリクス化しました。普段使いはステンレスor硬化鋼の一体型で割り切り、こだわる造形はkaikaやSiC、CF常用ならObXidianや超硬・PCD…と使い分けるのが2026年的な楽しみ方かなと思います。
随時更新します。
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